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デザインの歴史をおさらいしてはいかがでしょう?流行のデザインや新しい表現方法の情報を収集するとき、デザイン史の知識があればより理解が深まるかもしれません。



近代デザインの成立と発展

自由とともに生まれた近代デザイン

封建社会の終焉とともに、それまで階級や職業ごとに固定されていた衣服や住居、家具などの生活用品に関するデザインの社会的な制約がなくなりました。人々はどんなデザインの服を着て、どんなデザインの家に住んでも良くなったのです。

ヨーロッパではフランス革命、日本では明治維新をきっかけに、人々は誰かに押し付けられることなく自分の生活スタイルを決め、自由なデザインを選んで使うことができるようになりました。

自由な社会のスタートとともに、時代に合わせた新しいデザインをつくりだそうという試みが動き出します。
そこから近代デザインの歴史がスタートします。

骨董屋みたいな「歴史主義」と、その後のデザインムーブメント

19世紀の産業社会では、古い制度から解放された新たな生活スタイルをいかにデザインしていくかに目が向けられます。

とは言え、なかなか新しい生活スタイルを提案するのは難しいもの。やがて当時のデザイナーたちは過去の歴史的様式を折衷する「歴史主義(ヒストリシズム)」を実践していきます。「歴史主義」はそれ以前に存在した歴史的なデザインであれば何でもOK。ありとあらゆるものを引用し、折衷し、寄せ集められたものでした。

そんな歴史主義デザインを自らの生活スタイルに取り入れたのは、王族や貴族に変わって力を持ったブルジョワジーたち。結果として彼等の部屋は統一感のない骨董屋のような空間になってしまいます。センスもなにもありません。

統一性のない断片的な寄せ集めのデザインに対して「これじゃダメだよねっ」てことで、ウィリアム・モリスを中心としたアーツ・アンド・クラフツ運動や、アール・ヌーヴォーといった新しい装飾様式が提案されていきます。

グラフィックデザインの近代史

19世紀フランス、近代的なポスターの誕生

近代グラフィックデザインの発展の始まりは19世紀、フランスのポスターデザインからでした。
近代的なポスターデザインの先駆者はジュール・シェレ。魅力的な女性を描いたデザインで告知するのが彼のスタイルです。シェレは1890年までに1,000点以上のポスターを制作し、「ポスターの父」と呼ばれました。

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バニェール=ド=リュションの花祭り(1890)

1880年代になると、当時の市民生活に定着していた「アール・ヌーヴォー」の様式を取り入れたポスターが発表されるようになります。アルフォンス・ミュシャによる「ジスモンダ」、アンリ・ド・トゥールズ=ロートレックによる「ムーラン・ルージュのラ・グーリュ」などが有名ですね。

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ジスモンダ(1894)

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ムーラン・ルージュのラ・グーリュ(1891)

フランスから近隣諸国、そしてアメリカへ

フランス以外でも、雑誌やポスターを舞台に近代グラフィックデザインは大きく前進します。イギリスのベガスタッフ兄弟やチャールズ・レニー・マッキントッシュ、オーストリアのグスタフ・クリムト率いるウィーン分離派などが活躍しました。一方ドイツでは「ユーゲント・シュティール」というスタイルが提案されます。

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クリムト率いるウィーン分離派が発行した雑誌ヴェール・サクルムの創刊号(1898)

アメリカではウィリアム・H・ブラッドレイやエドワード・ペンフィールドらが活躍。雑誌「ハーパーズ」や「スクリブナーズ」、それを宣伝するポスターを手がけました。

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雑誌ハーパーズ(1896)

20世紀初頭の前衛芸術とグラフィックデザイン

20世紀に入ると、ダダや未来派といった前衛的な芸術運動が、その活動とイメージを売り込むために印刷物を用いるようになります。

ダダや未来派の芸術家たちがポスターや雑誌などの印刷物を活用したことにより、グラフィックデザインはその表現の幅がぐっと広がりました。

さらに彼ら前衛芸術家の国をまたいだ交流が、芸術とグラフィックデザインに国際化をもたらします。

芸術の一部ではないグラフィックデザインへ

同じく20世紀の始めの1910年代から、オランダ、ロシア、ドイツでは、芸術の手段としてではなく日常のデザインとして、グラフィックデザインは発展していきます。

オランダのテオ・ファン・ドゥースブルフは雑誌「デ・ステイル」を発行し、新造形主義の考えを展開しました。新造形主義は「すべての造形は水平垂直の直線と原色(赤・青・黄)で表現できる」とする急進的な理論。メンバーにはピート・モンドリアンもいました。

「水平垂直の直線と原色(赤・青・黄)で表現できる」。いかにもモンドリアンらしいですね。新造形主義の作品には一貫した平面性が強調されています。機能性と合理性を備えたデ・ステイルの概念は、画期的なモダンデザインの発想として各国に広まっていきます。

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モンドリアンの作品(1921年)

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雑誌デ・ステイル(1921)

同時期に建築家集団の機関誌「ウェンディンヘン」も発行されました。ウェンディンヘンは合理性や機能主義よりも情緒や装飾性が見られます。当時、デ・ステイルとは対極のデザインとして位置づけられていました。でも、今見るとデ・ステイル同様に徹底的に平面化されてますね。

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雑誌ウィンディンヘン(1921)

社会主義国のソビエト連邦ではロシア・アバンギャルド、ロシア構成主義といった芸術運動が展開されます。エル・リシツキーやアレクサンドル・ロトチェンコといったデザイナーたちが活躍しました。

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エル・リシツキーの作品(1919)

1910年代後半には、美術と建築を総合的なに教育するバウハウスが創立されます。1919年創立のバウハウスでは造形活動の最終目標を「建築」としていました。建築を学ぶうえで必要な教育の場として、さまざまな視覚表現に関わる工房が設置されていきます。

1924年には誌面の組版と印刷に関する実験を行う「印刷・広告工房」を設置。この工房では写真が持つ強く印象的なメッセージ性を重視したラースロー・モホリ=ナギが、フォトグラムやフォトモンタージュといった手法を開発しました。

バウハウスは1933年に閉校してしまいますが、視覚表現に関する実験は広告やマーケティングへと発展し、現代の広告戦略へと受け継がれていきます。

また、1920年代にはドイツ、スイス、オランダを中心にタイポグラフィが発展。文字の視認性の研究や書体デザインの動きが広がります。代表的なデザイナーはヤン・チヒョルト。著作「The Form of the Book」の中で、ブックデザインの理想的な比率として紹介された「Van de Graaf canon」は国境を超えて広く普及しました。

グリッド・システムを使ったグラフィックデザインの手法は、1950年代の国際タイポグラフィック様式(スイス派)へと繋がっていきます。

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ブックデザインの理想的な比率として紹介されたヤン・チヒョルトの「Van de Graaf canon」

市民生活のデザイン様式とグラフィックデザイン

時代を少しだけ遡った1910年代のドイツでは、不要な要素を排除してモチーフと文字を主体に大胆に構成する「ザハプラカート(またはプラカートシュティル)」と呼ばれる様式が登場しました。この様式はやがてフランスの「アール・デコ」として引き継がれていきます。

アール・デコの人気ポスター作家として、A・M・カッサンドル、シャルル・ルーポ、ジャン・カリュルらが活躍しました。

またグラフィックデザインは市民の生活スタイルとして愛される一方で、戦意高揚や社会改革など国家によるプロパガンダの道具としても利用されていきます。市民のものであったグラフィックデザインは、大衆の心を動かせることを認められ、国家に活用されるまでになりました。

CIとアートディレクターの発明

第二次世界大戦を終え1950年代になるとアメリカは空前の経済成長を迎え、広告の需要が高まります。マーケティング戦略が展開され、さらなる消費と高度成長をアメリカにもたらします。

この時代にアメリカで発明されたシステムが「CI(コーポレート・アイデンティティ)」と「アートディレクション」。2つとも現在でも有効な方法ですね。

この時期におけるCIの代表的な作品は、やはりポール・ランドの「IBM」。ウィリアム・ゴールデンによる「CBS」も有名です。

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IBM(1956)

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CBS(1951)

19世紀フランスのポスターデザインから進歩したグラフィックデザインは、1950年代のアメリカで生まれたCIやアートディレクションといった方法を取り入れ、ビジネスの場でも重要な要素のひとつと考えられるまでになりました。

これ以降、グラフィックデザインはテレビや雑誌などのメディアとともに急速な広がりを見せ、現在へと繋がっていきます。

「サラッと」と言いながらかなり長い記事になってしまいましたね。それぞれのムーブメントについてや用語の説明など、またの機会に紹介できればと思います。

みなさんが現代でのデザインの流行や動きを知る上で肥やしにでもなれば幸いです。



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